(あらすじ)早川のサイトより転載
高校2年生の荒坂浩二はある事件がきっかけで美術部を退部。本嫌いだが特に仕事もなく暇な図書委員会に籍を置いている。ところがやる気に満ちた新任司書から、クラスメイトの本の虫・藤生蛍とともに、十数年前に途絶えた図書新聞の再刊係を任されてしまう。「身近な人のおすすめ本」を紙面の目玉にしようと考えた二人は、クラスメイトや美術部の先輩、生物教師に読書感想文の執筆を依頼。しかし彼らは提出に際しなぜか不可解な条件を出してくる。その謎を解こうとする浩二と蛍だったが、それは先輩や教師の抱える秘密、そして18年前の学校で起きた自殺事件の謎へと繋がり……。本嫌い男子と本好き女子が紡ぐ青春と秘密の物語。
本を読んだ感想は、読み手の数だけある。書き手の真意を探ろうとするけれど、どこまでも推測に過ぎない。どこまでも深く深く読みこんだとしても、別の人が読めば、違う視点から新たな意味が明らかになり得る。それが文学、ひいては小説の面白さであり、奥深さであるのではないか。だからみんな素直に自分が感じたことをそのまま表明すればいい。
現代では、作者と直に繋がることも可能であり、感想が作者にフィードバックされたりもするので、古典文学とは違った面もあるが、文学の可能性という点では、明治の文豪も現代のweb作家もそう大きな違いはないのではないだろうか。作家としてのレベルの違いはあるとしても。
読み手にとっても大切なものを指し示してくれるが、それは書き手にとっても同じ。自分の作品に価値を感じなくても、もしかしたら誰かが必要とするかもしれない。それは生み出した作品が満足いくものでなくても、多くの人に評価されなくても、それは誰かにとっての宝物になり得るのだ。だからみんな自信を持って書いたらいい。
そんなことを示唆してくれたのがこの小説だ。本嫌いの主人公が、本好きの女の子とともに図書新聞の制作に関わったことで大きく成長してゆく姿は、真摯でまっすぐで感動的でもある。
ミステリ要素のあるいくつかのエピソードを通じて、事件の真相だけにとどまらず、小説の新解釈、さらには主人公たちの内面の謎まで明らかになるにつれ、彼らがこれからどうやって生きていくか深く考えざるを得なくなってくる。それは我々読み手の人生にまで影響を与えるかもしれないものである。
この小説は非常に読みやすい。古典小説を扱っているのにも関わらず、難しい漢字、語句、言い回しを極力使わず、平易な言葉でなおかつ詳細に分かりやすく紡がれている。読者に優しい小説なのである。
ともすればラノベのような読みやすさは、軽く読み流されてしまう危険性もともなうが、この小説はラノベとして読むには深くまで斬り込みすぎているし、かといって純文学と呼ぶほどの重厚さはないかもしれない。取り扱うエピソードの一つ一つを見れば、ミステリとしては陳腐であったり、青春小説としては躍動感が足りなかったり、内面を抉る本格小説としてみれば主人公の葛藤シーンが少なくて物足りなかったりするかもしれない。一つ一つはある意味中途半端で、どこかで読んだような平凡な題材や描き方であったりするのだ。そのため、読む人によっては読み終わっても、よくある類型的な平凡な小説と感じて物足りないかもしれない。ミステリにつきものの強引な解釈が目について不満を感じるかもしれない。正直、私自身、この小説から爆発的に人に感動を与える力は感じない。
それでも私がこの小説を絶賛するのは、この小説があらゆる面で中途半端な要素を抱えながら、それらを包括して小説として総合的に見た場合、その完成度の高さに舌を巻かざるを得ないからだ。何を言いたいのかと言うと、要素のつながりの必然性や合理性、心理的結びつき、そういった面に心配りが行き届いている作品だということだ。
私はこの小説の途中で「はっ」とさせられることが幾度もあった。それはそれまでに記された内容と思わぬ場面で繋がるシーンが数多く見られたからだ。一言で言えば伏線ということになるだろう。ミステリ要素の伏線だけでなく、「ああ、これは作者がこういう意図を持って描いていたのか」と後から納得できる場面が、とても豊富だったのである。それは繊細さの現れである。小説全体の構成が考え抜かれているというのがヒシヒシと伝わってくる。私はその恐ろしいまでの迫力に圧倒されたのである。
そんな風に感じたのは私だけかもしれない。今まで数多くのミステリや青春小説を読んできたが、こんな経験はあまりない。もっと論理的で感心したミステリはいくらでもあるし、もっと心の底から感動した青春小説もいくつかある。独特の軽快な文体が素晴らしかったり、キャラがめちゃくちゃ魅力的だったりする物語もたくさんある。それらはそれらで、もちろん優れた作品であることは間違いない。印象に残る小説を挙げるとすれば、そういった作品が真っ先に上がるに違いない。しかし、総合的にじわじわと読み手の私に訴えかけた小説は、なかなか思いつかない。
私の現時点での最高評価の小説は北村薫氏の『スキップ』であるが、それは内容やストーリー云々より、人はいつからでも再スタート出来るという信念を私の生き方にもたらした点が大きい。この『読者嫌いの〜』はそれとはまったく違った意味で私の心の深奥に迫った作品だったのである。
多くの人は、読後感の良い青春小説ぐらいの印象しか持たないかもしれない。主人公が鬱々とした考え込む性格でないのは読み手にとって重たくならず、結果的にいいペースで読み進められたはずだ。それはそれでありだと思うし、実際のところ、作者だってどこまで考えながら執筆したのかなんてのも分からない。私の解釈はあくまで私の解釈に過ぎず、だからこそ声を大にして他人に薦めることも出来る。そんなこともこの小説から感じさせてもらった。読者はどんな感想だって持っていい。ただ他人の感想にも耳を傾けることでさらに世界が広がる。自分の感想だってまたそれで変わっていくのだ。今は他人のレビューや感想もネットでいくらでも読める幸せな時代だ。そういう意味では、文学自体のこれからの発展に無限の可能性を感じるのである。
ここから蛇足になるし、ネタばれにもなるが、ミステリとしての側面にも触れておきたい。この作品はいくつかの短編ミステリを含みつつ、全体として一つの小説を作り上げる体裁をとっている。ミステリとしては、奇抜なトリックがあるわけでもないし、論理が特別鋭いわけでもないかもしれない。私自身はトリックには感心したし、論理性も高く評価してるし、伏線のちりばめ方も見事だと思うが、本格ミステリを読みなれた猛者にとってはそれほど魅力的なミステリに映らない可能性はある。だが、動機や心理面まで深く斬り込んだ推理は読み応えがある。文学の謎も絡めて、かなり贅沢な謎解きを味わえると感じた。ネタばれになるが、主人公のある秘密には驚かされたし、怪談の用い方にも工夫を感じた。じっくり読み込めば決して予想出来なくない真相でありながら、かつ意外性のある真相というのは微妙なバランスが必要で、そのあたりに作者の繊細さを感じるのである。純粋なミステリレベルはそれほど高くないのかもしれないが、青春小説という大枠の中でのミステリ要素の活かし方のうまさという点で、私はこの小説をミステリとしても高く評価したい。
JUGEMテーマ:読書
予備校生の信也は、土手で絵を描く紅美子と知り合い、同じアパートで半一人暮らしを始めるのだが・・・。
第55回日本推理作家協会賞を受賞した表題作ほか、「ささやかな奇跡」「兄貴の純情」「イノセントディズ」の全4編収録。
光原作品の魅力満載という印象だった。
表題作は、恋愛ミステリの部類に入るだろうか。
意外な展開になってゆき、充分興味深く読ませてもらったが、連城三紀彦風でもあり、受賞には納得できる。
シンプルなストーリーで気持ちよい「兄貴の純情」、法月作品と連城作品が融合したような「イノセントディズ」もそれぞれ楽しませてもらった。
しかし、一番のお気に入りは「ささやかな奇跡」。
ミステリ的小道具もさることながら、すがすがしい恋の話で感動的だった。
重松清風でもある。
主人公の水島の人柄が穏やかで、それが素朴な魅力をかもし出している。
(2003.5評)
]]>
JUGEMテーマ:読書
育生は小学生。
家には父さんがいなくて母さんと二人暮らし。
でも、自分は捨て子であると疑っている。
母さんは育生のことがとても好きだが、最近は朝ちゃんに首ったけだ。
育生は友達の池内君が長く学校を休んでいるのが気になっていて・・・。
表題作他「7's blood」収録。
「卵の緒」は2001年第7回坊ちゃん文学大賞受賞作である。
中学講師という職業柄か、子供の描写が可愛らしくて巧いなあ、と感じた。
「卵の緒」に出てくる母親の性格は実に開けっぴろげで憎めないキャラなので好感が持てる。
母子家庭のお話であるが、ハッピーストーリーで、親子の愛、友情などをテーマにわかりやすく書かれた軽快な小説である。
「7's blood」の七生と七子のコンビの組み合わせも面白い。
七生は小学生にしてはしっかりし過ぎているとも思うが、二人のやりとりはとても奥が深く透明で心あたたまるものがある。
ラストはやや物足りないが、途中ほっとするような場面がいくつもあり、「和み系」小説の傑作だと思う。
(2003.2 評)
]]>JUGEMテーマ:読書
街角で雨に打たれ続けている女。
その女を黒塗りの高級車の後部座席から見つめている男。
男の車が走り去った後に、女に近づく男。
男は女の体に手を伸ばすが、女の握り締めたカッターナイフに刺されてしまう。
男が逃げ出した後、ジローはその女を見つけた・・・
辻内氏はやっぱり最高だ。
「TOKYOオトギバナシ」という副題がついているこの小説は、まさに「大人のおとぎ話」という言葉がぴったりな夢のような話である。
ジローや洋子や龍治のそれぞれの思いを深く描き出すとともに、周囲の人達のあたたかさに包まれる様子もしっかり描かれていて、温かさと冷たさの入り混じった鮮度のいい小説だ。
洗練されたユーモラスな会話も巧いのだが、なんといってもラストの大芝居ぶりが印象的であった。
あまりにも露骨すぎる感じがしないでもないが、「大切なもの」を丁寧に書きたい気持ちがすごく伝わってくる。
こういう小説を読んでみたかった!
印象としては「センセイの鞄」(川上弘美)の世界観に近いような気がするが、真面目な恋愛小説であるにもかかわらず、堅くなく読み手に優しいのである。
今までの辻内作品には、強烈さや人情などが個々に前面に押し出されていたが、本書は、そこからまた一段レベルの上がった非常に完成度の高い作品であると思う。
(2003.3評)
]]>JUGEMテーマ:読書
豪商の家庭に育った娘珠晶は、先王が亡くなってから妖魔が徘徊し荒れ果てる恭国を救うべく、自ら王になろうと決意する。
騎獣を操る珠晶は、旅の途中で知り合った頑丘・利広とともに黄海に入り、昇山を目指すのだが・・・
十二国記シリーズ番外編になるが、なぜかシリーズ初読み作品(笑)
本書は発表順からいけば、5番目ということになるのだが、ほぼ独立したストーリーなので、物語世界にはいるのに何ら問題はなかった。
十二国が並び立ち、妖魔や騎獣が生息する仮想世界なのだが、ベースとしては中国の春秋時代あたりであろうか?
歴史もの、王朝ものの好きな創作家なら一度はチャレンジしてみたいようなファンタジーである。
異世界ファンタジーは、小説、漫画、ゲームなど数多くあるのだが、舞台世界の完成度の高さと個性的な魅力によってマニアックなファン層を得やすい。
その世界に一度はまってしまうと、ストーリーが2倍3倍と楽しめるのが特徴である。
この十二国記が多くの人に支持されているのはなぜなのか?
本書だけではその謎は解明できないが、珠晶の一途な行動力と頑丘の堅固な生き方は、本書の大きな魅力の一つであろう。
黄海という謎めいた場所の不可思議さを存分に利用したドラマチックな冒険ストーリーになっているとともに、、季和・聯紵台という脇役を配することによって珠晶の心の純粋さを際立たせている。
後半は長さを感じさせない面白さがあった。
今後、他の作品とどう関連してくるのか興味深い。
(2002.7 評)
]]>
JUGEMテーマ:読書
ピアノ教室をリストラされたピアニスト健太は、アロハシャツの男から「本屋でバイトしないか」と声を掛けられる。
翌日、目が覚めると、健太はいつの間にか天国の本屋に来ていて、そこでバイトを始めるのだった。
一方、商店街の青年団で活動する香夏子は、怪談大会の失敗でイライラしていたが、ひょんなことからかつて行われていた花火大会のことを知る・・・
美しいメロディーを奏でるようなピュアストーリー。
複雑な展開の多い現代小説にあって、宝石のような輝きを放つ貴重な小説という印象を受けた。
「天国の本屋」での健太とピアノ弾きの女性の出会い、香夏子と花火師との出会い、交互に展開する二つの物語の行く末は、読者の期待を決して裏切らない。
確かに恋愛ストーリーではあるのだが、露骨にそれを表現しているのではなく、むしろ健太や香夏子のユーモラスでさっぱりした生き方を前面に出して、それと対比させるように過去の男女の物語を綴っている手法が素晴らしい。
「恋火」というタイトルも気に入ったが、シンプルでありながら奥の深い物語の構成も感心せざるを得ない。
そして文章の美しさも印象的であった。
(2003年1月評)
]]>
JUGEMテーマ:読書
ぼくは死んで魂になって流されていたが、天使が出てきて「再挑戦」のチャンスを与えるという。
天使プラプラのガイドでホームスティ先に降り立ったぼくは、自殺を図った少年、小林真の体に入った。
入院している間の家族の様子を見たぼくは安心するが、退院した後、徐々に家族の本性が明らかになってゆき・・・
児童書であるが、たくさんの人が気に入っている本なので読んでみた。
設定は、死んだ魂が別の体に移って復活のテストを受けるというもので、面白けどちょっとありがちかな、と思った。
前半は割と淡々としていて、内容的にも児童書としてはどうかな?というような感じがして、特に良い悪いは評価できなかった。
しかし、途中から話は一転して急に面白くなってきた。
そして、ラストがまたすごい!
作中でも雷が出てくるが、まさに雷に打たれたような衝撃だった。
これが児童書なんて勿体無い!
最初に感じたのと違う意味で、児童書にはふさわしくない、こんな素晴らしい本は大きくなってから読んでね、と言いたいぐらい。
家族や友人に関しても、最初はさして目を引かれなかったが、後半はそれぞれの特徴が際立ってきて、それぞれがこの小説を軸にバランスよく収まっている。
特に母親のキャラは最高である。
前半だけなら並みの物語で終わってしまうが、後半まで読むと作者の驚くべき才能に気づかされる。
この作者の他の著作も読んでみたい。
(2003年5月評)
]]>旧サイトからの移行途中で、しかも最近までサボってたので、デザインも中途半端にいじってる最中で、なんか申し訳ないです。
思えば、このブログも開始してから10年以上経ってしまいました。
ああ、月日の経つことのなんと早いことか!
私のおすすめ本
今日は折角、来てくれる人も少しは居そうなので、おすすめ本を挙げておきますね。
解説は超簡単に済ましますが。
「スキップ」(北村薫)
まあ、いわゆるタイムスリップ小説なんですけど、好きすぎて20年以上たった今でも座右の書になるぐらい好きな小説です。主人公の女性は人によっては嫌いかもしれないけど、前編通じての前向きな姿勢が気に入ってます。
「ソリトンの悪魔」(梅原克文)
基本的にSF好きなのですが、この小説は科学的にというより活劇風なところが好きです。深海での攻防がスリル満点で、そうまるで紙芝居を見ているよう!読みながら続きがとっても気になる小説でした。
「虚無への供物」(中井英夫)
連続殺人ミステリの不朽の名作。ミステリ好きでも最近の人はあまり読破してないかもね。めっちゃ分厚いですが、ミステリとしてはとても充実した内容。ただ、昭和30年代の作品なので読みにくさはあります。
「邪馬台国はどこですか」(鯨統一郎)
ユーモア歴史ミステリ。歴史好きでミステリ好きで、なおかつ軽く読書したい人におすすめ!
「ドミノ」(恩田陸)
直木賞作家恩田陸さんの最高傑作(だと私だけが思ってる、同意してくれた人にはまだ出会えてない)です。抱腹絶倒のユーモア小説ですと一言でまとめてみる。
「カラフル」(森絵都)
ブログ書いてるうちにどんどんおすすめ本が脳裏に蘇ってくるので困るのだが、この「カラフル」は本当に中高生におすすめしたい!
ミステリではないけど、ミステリの基本も抑えていて、なおかつ感動的な小説です。
「亜愛一郎の狼狽」(泡坂妻夫)
日本のチェスタトンとも呼ばれる泡坂氏のミステリはどれも凝っていて面白いのですが、中でも名探偵亜愛一郎が出てくるミステリ短編集はよく考えられています。これは日本のミステリ短編集史上でもベスト10に入るぐらいの作品だと思います。この本の中で一番好きな短編は「掌上の黄金仮面」です。
「七姫幻想」(森谷明子)
平安時代の日本の古典を想起させるような美しい物語の数々。一応、ミステリに分類ますが、謎の推理よりもこの世界観が大好きです。
「イニシエーションラブ」(乾くるみ)
最後に挙げるのは、当ブログでも採算取り上げた恋愛ミステリの傑作です。文庫化したあと、これほど話題になるとは想像もしてなかったのですが、あの仕掛けはやっぱりすごいの一言です。完全に脱帽しました。
JUGEMテーマ:読書
JUGEMテーマ:読書
JUGEMテーマ:ミステリ
JUGEMテーマ:読書
JUGEMテーマ:読書
JUGEMテーマ:読書
宮城県警の刑事、桐野(愛称キリン)は、先輩の娘にして超人的美少女探偵、根津愛 とともに愛の友人の別荘を訪れる。
途中から車に乗り込んで来た教師、藤井との 話によると、10年前にその別荘の日輪館という奇妙な建物で完璧な密室殺人が起こ ったという。
別荘で秘かに推理を進めていた愛は、あっさりと謎を解明するが、 ”ミステリ史上初のトリックかも知れない”という言葉を残し・・・
原書房から新たに刊行され始めた書き下ろし本格ミステリシリーズ「ミステリー・リ ーグ」の第一回配本。
美少女探偵根津愛シリーズ3冊目の作品である。
500P 近くの大作であるが、内容的にもかなりの力作である。
「ミステリ史上初のトリ ック」「前代未聞の密室の動機」「模型の館に人形を出現させるトリック」と華々し い言葉が並ぶが、トリック・構成ともに非常に良くできた本格ミステリである。
トリックの骨格は確かにあまり例のないものであるが、何より小トリックの組み合わ せが実によく練られている。
動機・人物関係・時系列などがうまく噛み合うよう に伏線もしっかり張られており、かなりレベルの高いミステリではないだろうか。
年末のベスト10などに顔を出すかと言われれば、必ずとは言えないが、それは愛 川晶という作家の作風がまだ浸透してないからであって、作品そのものは個人的には 押したい。
根津愛と桐野のコンビも板に付いてきた感じで、ストーリーによく溶 け込んでいる。
細かい点で強引だったり、日輪館のトリックが面白くないなど、 多少不満なところはあるが、インカ帝国の挿話を取り入れるなど、読んで面白いミス テリに仕上がっている。
「堕天使殺人事件」や他の根津愛シリーズを読んだ後に この作品を読むとまた格別の楽しさがあるかも知れない。
原書房、なかなかやる なあ、という感じ。
今後のミステリリーグが楽しみである。
(2001.11.2評)
]]>